発達的アプローチ:シャインのキャリア理論
エドガー・ヘンリー・シャイン(Edgar Henry Schein、1928年 - )。アメリカ合衆国の心理学者。組織開発(オーガニゼーションディベロップメント、OD)、キャリア開発、組織文化の分野で、支援や補助を提供するさまざまな専門職の発展に貢献。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校経済学部の名誉教授。
プロフィールから見て取れるように、シャインの理論における最も大きな特徴は、キャリアを組織と個人の両視点から捉え、その関係性を反映させた主張をしていることです。個人の欲求と組織の要望がダイナミックに変化する環境下で、それらを調和させながらキャリアを形成していく重要性を述べています。
「キャリア・アンカー」「キャリア・サバイバル」など有名な理論を研究成果として複数残しているので、いくつかを順にご紹介したいと思います。
シャインは仕事・キャリアのサイクルにおいて、組織と個人のキャリアの関連性を踏まえ、9つの発達段階とそれに応じた課題を整理しています。
※参考:GCDF-Japan キャリアカウンセラートレーニングプログラムテキストブック
このモデルは、人としての基礎を形成しながら成長し、社会人としてのキャリア基礎を固め、職業人として段階的にキャリアを積み重ねていくプロセスを表現しています。
自分のキャリアの発達段階がどの時期なのか、その時期には何を期待されているのかを自覚しながら、意識的な毎日を過ごすことが重要だとしています。
時代や国により、仕事の世界へのエントリー時期が後ろ倒しになる、あるいは引退の時期が先延ばしになるなど、時間軸においては若干のズレがあることは前提に踏まえつつ、辿っていくプロセスとその課題を把握しておきたい。
キャリアを決定するにあたって、何かを犠牲にしなければならないときに、どうしてもあきらめたくないとする【能力】【動機】【価値観】のこと。つまり個人のキャリアの核をなす自己概念を「キャリア・アンカー」といいます。
キャリア・アンカーは社内移動や転職などの転機において、進むべきを・進みたいキャリアを選択する際の判断基準となり、これからのキャリアを方向付ける役割を果たします。
仕事で試行錯誤した経験・体験や、その仕事に対する周囲からの客観的なフィードバック、それを受けての内省を繰り返すことで、自己概念は少しずつ形づくられていきます。
シャインはそのキャリアアンカーを8つのカテゴリーに分類し、能力・動機・価値観に関する質問に回答することで、キャリア・アンカーを概ね特定できるとしています。
<質問例>
●能力:自分の強み・弱みは何か?生まれついてお才能は何か?
●動機:自分が本当にやりたいことは何か?自発的活動を促すものは何か?
●価値観:意味を感じる活動は何か?どのような価値を大切にしているか?
表を作成する際に、以下冊子を参考にさせていただきました。
自分自身のキャリア・アンカーがどのカテゴリーに該当するのかを知ることができるアセスメントツール(40項目の質問に回答するもの)も提供されています。ぜひ参考にしてみてください。
皆さんは、自分がどのタイプに該当するか概ね予想を立てられましたか。もし該当するアンカーがはっきりしないという場合には、以下2つのことが想定されます。
●社会人経験が十分ではなく、傾向が出ない。
重大なキャリアの選択に直面した経験が少ない、あるいは特定の種類の仕事しか体験していない場合は、そもそもの自己理解がなされていない可能性があります。自己概念を形成する【能力】【動機】【価値観】への理解が深まっていない社会人経験10年未満、20代の方はそのような傾向が強いそうです。
その場合は、目の前の与えられた仕事に全力で取り組むこと、未知の体験があれば積極的に挑戦することを通じて、人生経験を広げ、自分自身への理解を深めることが重要です。
●8つのカテゴリーに分類されないアンカーを持っている。
あくまで自己理解を助けるため8つのカテゴリーに分類されているわけで、全ての人類がきれいに8つにわけられることを保証するものではありません。時代が変わり働き方・就業観が変われば、カテゴリーに該当されにくい新しい概念が生まれるのも自然な流れではないでしょうか。
例えば「保証・安定」の概念をこれからの変化の時代の中でも実現しようとすると「自立・独立」「起業家的創造性」などこれまで真逆とされてきた概念が必要条件になるのかもしれません。スキルの陳腐化・短命化が叫ばれる時代には「専門・職能別能力」に加え「経営管理能力」を併せ持ったハイブリッドなアンカーが主流になるかもしれません。「調和・共創」という「同じ価値観を持った仲間と共に時間を過ごす」のような価値観が、新たなカテゴリーとして存在しているようにも思います。
キャリアアンカーが私たちに提供するものの本質は「自己理解を促すこと」であり、「カテゴリーにあてはめること」ではないことを踏まえ、キャリアアンカーをガイドにしながらも自己理解に向けた継続的な努力をすることが重要だと考えます。