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社会的学習理論アプローチ:キャリアチェンジ論

ハーミニア・イバーラ。INSEAD教授。マイアミ大学卒業後、イェール大学で博士号取得。INSEAD前は、ハーバード・ビジネス・スクールにて13年間教鞭を執る。人材管理・キャリア開発・組織変革をテーマに講演・寄稿の実績多数。

イバーラ氏はキャリア・チェンジの本質を「キャリア・アイデンティティーの修正」であるとしています。キャリア・アイデンティティーを構成する要素は以下の3つです。

●職業人の役割を果たす自分をどう見るか

●働く自分を人にどう伝えるか

●最終的には職業人生をどう生きるか

従来のように「就きたい仕事を認識し、行動する」のではなく、新しい世界、人間関係、役割を経験しながら答えを見つけるキャリア。チェンジのアプローチを提唱しています。キャリア・チェンジの可能性を考え始める人々はみな、動機・目標の明確さ・制約条件・関心・出発点などは異なるが過渡期の間(旅の道のり)は類似しているとしています。

そして「将来の自己像を探る」⇒「新旧のアイデンティティの間にとどまる」⇒「大きな変化の基盤」を築くの3つのプロセスを「過渡期のアイデンティティー」と表現し、アイデンティティーの確立をモデル化しています。

※参考 『ハーバード流キャリア・チェンジ術』、P.214の図

試す期間の行動を通じて、漠然とした可能性が具体的な選択肢へ変わり、それを(全てではないが)評価できるようになるアイデンティティーの過渡期は、絶対に必要な時間であると主張しています。

新しいアイデンティティーを確立するために、過去の経験や将来の夢、今の価値観や長所を考えることは重要で役立つとしながらも、考えるより行動・経験から自分を理解する場合が多いと述べています。

行動を始めて、変化にある程度勢いをつけていないと、変化に向けて新しく考えるべきことすら見つからないということです。行動とは具体的には、以下のようなことを示します。

●様々なことを試してみる

●人間関係を変える

●(出来事を)深く理解し納得する

「将来の自己像を実際に試し、念入りに対処し修正していくことで、経験により十分な基盤が築かれさらに重要なつぎの段階へ導かれる」と述べています。

将来の自己像を探る段階にある誤解として、「本当の自分が存在する」という考え方をあげています。それは、過去の経験や価値観に基盤を持つ「唯一の自己像」が存在し、自分の内面から見出した真実が最終目標・行動計画を決めるとする「計画して実行する方法」を支持する考え方です。

一方イバーラ氏は「将来の自己像が無数に存在する」考え方を述べています。それは、将来のイメージとして変化をしながら「数多くの自己像」が存在し、選択肢を試し経験から学びながら自己像を明らかにする「試して学ぶ方法」を支持する考え方です。以下は、将来の自己像を探る具体的なイメージです。

●今までと違う自分を思い描き、少し試してみる。

●その結果により詳しく検討するか、取りやめるかを判断する。

●自分に合わない考えは捨て、見込みがないものは現実を直視する。

●興味が持て実現できそうなものを知るには試してみるしかない。

●試していくなかでチャンスがめぐってくる。

複数の自己像を見つける最善の方法は「一歩を踏み出す」ことだと述べています。

ときには過去にしがみつき、ときには将来を受け入れながら、確信がないままに「将来の自己像」を試す試練の期間だとしています。

過去に頑としてしがみついていたいと固執する、将来へ向けて意欲的に前進したい気持ちになるという両方の心理状態になり、まさに新旧のアイデンティティーの間にいることになります。

この辛い時期を乗り越えるために、これまでしてきたことに終止符を打ち、何かを目指すモードになること、行動し、頭の中の将来の自己像と現実的な新しい道とのずずれをなくすこと、一貫性のない矛盾する時期を耐え可能性を試し続けることなどがあげられていました。

キャリアに関する問題では、まず一歩を踏み出すことが唯一の対処方法である場合が多いことに加え、初めから大きな変化に取り組もうとすると、かえって逆効果を招きかねないことが述べられています。

人に変化をもたらすのは、大きな構想や綿密な戦略ではなく小さな一歩から得られる小さな勝利の積み重ねであり、変化を概念としてではなく毎日の生活に影響を与える現実のものとして認識をする必要があるとしています。

また状況が新しくなったとしても、自分自身の判断基準が変わらないままでは、人は徐々にしか変わることができないと述べています。

新たなキャリア・アイデンティティーを確立していく過程では、可能性に向けて小さな行動を重ねながら、自分の判断基準を見直すことが不可欠だとしています。

モデル化されたアイデンティティー確立に役立つ指針として、数多くの体験談から導き出された戦略が、「新しいキャリアを見つけるための型破りな9つの戦略」としてまとめられています。

1.行動してから考える。行動することで新しい考え方が生まれ、変化できる。自分を見つめても新しい可能性は見つけられない。

2.本当の自分を見つけようとするのはやめる。将来の自己像を数多く考え出し、その中で試して学びたいいくつかに焦点を合わせる。

3.過渡期を受け入れる。執着したり手放したりして、一貫性がなくてもいいことにする。早まった結論をだすよりは、矛盾を残しておいたほうがいい。

4.小さな勝利を積み重ねる。仕事や人生の基本的な判断基準がやがて大きく変わっていく。一気にすべてがかわるような大きな決断をしたくなるが、その誘惑に耐える。

5.まずは試してみる。新しい仕事の内容や手法について、感触をつかむ方法を見つけよう。今の仕事と並行して実行に移せば、結論をだす前に試すことができる。

6.人間関係を変える。仕事以外にも目を向けた方がいい。あんなふうになりたいと思う人や、キャリア・チェンジを手助けしてくれそうな人を見つけ出す。これまでの人間関係から探そうと考えてはいけない。

7.きっかけを待ってはいけない。真実があきらかになる決定的瞬間を待ち受けてはいけない。毎日の出来事の中に、今経験している変化の意味を見出すようにする。人に自分の物語を実際に何度も話してみる。時間がたつにつれ物語は説得力を増していく。

8.距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。

9.チャンスの扉をつかむ。変化は急激に始まるものだ。大きな変化を受け入れやすいときもあれば、そうでないときもあるから、好機をのがさない。

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