発達的アプローチ:D.E.スーパー キャリア・ディベロップメント理論
ドナルド・E・スーパー(Donald E Super、1910-1994)。アメリカのキャリア研究者。雇用と労働市場、人事管理などを実務として習得後、コロンビア大学に進学し博士号を取得。コロンビア大学にて教授を務め、同大学名誉教授に就任。
キャリアという概念を包括的に捉えたキャリア理論の「古典」とも言われ、国・地域や時代が異なっていても、普遍性高く応用できる理論として評されています。キャリアを「人生のそれぞれの時期で果たす役割の組み合わせ」と定義し、「ライフ・ステージ論」「ライフ・キャリア・レインボー」という考え方を提唱しています。
スーパーは人生でキャリアを発展させていくプロセスを、以下のように5つの「ライフ・ステージ」とより細かな「サブステージ」に分類しました。
それぞれの段階に仕事における発達課題があり、それらを克服をしていきながら一生涯に渡りキャリアを発展させていくことを示しています。尚、ここでは簡単にしか触れませんが、スーパーはこの理論に、「マクシサイクル」と「ミニサイクル」という考え方も加えています。
マクシサイクルは、ここまで説明してきたライフ・ステージの5つの段階のことで、ミニサイクルとは、マクシサイクルのある段階から次の段階へ移行する間に挿入される過渡・トランジションの時期における意思決定過程のサイクルのことで、同様に「成長」「探索」「確立」「維持」「下降(解放)」のプロセスを辿るとされています。
近年の日本においては、例えば探索段階は20~30歳、確立段階は31~45歳と全体的に時期を後ろ倒しにした方がしっくりくるように思えますが、各段階の内容や順序においては、今もなお十分に通用する普遍性を持った理論であると考えます。
ライフ・ステージ論の、結婚や育児など生活面の変化を考慮していないという観点を補うものとして「ライフ・キャリア・レインボー」が提唱されました。
スーパーはキャリアを「人生のそれぞれの時期で果たす役割の組み合わせ」と定義し、人生のそれぞれの時期=「ライフ・スパン」、果たす役割=「ライフ・ロール」と位置付けています。ライフ・スパンはそのまま、ライフ・ステージに該当します。ライフ・ロールは以下のように8つの役割に分類しています。
人はある特定の役割のみを果たすのではなく、ライフ・スパンの中で、複数の役割を担います。また、職業上の志向や能力だけでキャリアが発達するのではなく、様々なライフロールから影響を受け合うものであると主張しています。
労働者としての役割に偏りがちなキャリアが見直され始めた近年でも、ライフ・ロールのバランスを重要視する考え方が力を持ちつつあります。ライフ・スパンの一連の段階の中に、各ライフ・ロールを位置付け、虹に模した1枚の概念図にまとめたものが「ライフ・キャリア・レインボー」です。
以下の図は、あくまでイメージを持ってもらうために筆者が作成したもので、厳密な概念図ではないことをお断りしておきます。
※渡辺三枝子『キャリアの心理学』(ナカニシヤ出版)の図を参考に著者が作成
近年、「ワーク・ライフ・バランス(調和)」や「ワーク・ライフ・インテグレーション(統合)」という仕事と生活の相乗効果を高め、持っている能力をフルに発揮し、それぞれが望む人生を生きるという概念が一般的になりましたが、その前進は既にこのレインボーで表現されていたようです。
最後に、ライフロールの役割を果たす際に重要なものである「価値観」についてご紹介します。苦労や困難を乗り越えて役割を果たすためには、自分が重要とする価値観を認識・理解することが重要であると述べています。
個人が重要性・必要性を感じる価値観を「14の労働価値」にまとめています。
これらの価値観をもとに、自分が重要視する価値観(優先順位)を認識することが適切な職業選択につながります。そして、その価値観を仕事・生活・人間関係に反映していくことが、長期的な満足度の高いキャリア形成を実現。