知っておきたいキャリア理論
理論という言葉が持つ意味を調べてみました。
1.科学研究において,個々の現象や事実を統一的に説明し,予測する力をもつ体系的知識。狭義には,明確に定義された概念を用いて定式化された法則や仮説を組み合わせることによって形作られた演繹的体系を指す。
2.特定の研究領域や個々の学者の学説や見解を指すこともある。
3.実際の経験から離れて純粋に思考の中で組み立てられた知識。「実践」に対立し,否定的意味で使われることが多い。空理空論。
(引用:Weblio辞書)
わかるような、わからないような・・・。
広い意味合いを持つ言葉ですが「個別の現象・事柄の関係性や見解を、統合的に説明した体系的知識」のことであり、様々な切り口から意味ある規則的関係に整理することで、私たちが複雑に構成されている世界を理解することを助けてくれるものだといえます。
では私たちは、キャリア理論を具体的にどう役立てられるのでしょうか。
キャリアを考えることは「自分が世界とどのような関わっていくかを考える行為」ともいえます。自分と世界、複雑に構成される両対象を同時に理解しながら、その関わり合いを考えるのです。この極めて難解な行為の補助輪となり私たちの思考をガイドしてくれるのがキャリア理論で、例えば以下のような役立て方を想定することができます。
1.複雑な自分と世界を理解する「考える枠組み」を提供する
例えば「よし、自分を分析しよう!」と思い立っても、どのような観点で何を分析したら自分を理解できるのかがわかりません。世界を知ることに関しても同様です。キャリア理論は何を分析すべきかという観点を私たちに示してくれます。
2.現在の課題認識や将来の課題予測、意思決定を支援する
いくら「個の時代」と言われていても、人間には多くの共通点があることも事実です。例えば、人生のある時点で一般的に抱えやすいキャリア上の課題がわかっていたとしたら、今の自分の状態がそれに該当すると認識でき、その解決や対処する備えをすることを助けてくれます。未来に抱えやすい課題がわかれば、早めに意思決定の材料を集めることができるかもしれません。
3.他人のキャリアを客観視できる
キャリアに関する相談を受けることもあるかと思いますが、体験的に語れるキャリアはごく一部に限られます。理論への理解があれば、主観に囚われず的確に相手の状況を整理し、客観的なアドバイスをすることができます。
キャリアという漠として捉え難い概念を考える際には、全体像の中に問題を位置付け、適切な論点をガイドしてくれる理論が助けとなります。
ただし注意しておきたいのは、あくまでも理論は補助輪に過ぎないことです。複雑で急速に変化していく現実世界に十分に適応しきれない理論もあるでしょう。特に国や地域、考案された時代背景が異なれば、適応が難しい場合が多いのではないかと思います。
そこで重要になるのが「どの部分は適応でき、どの部分は適応できないのか」を自分の頭でゼロから考え、必要に応じて「どうすれば適応できそうか」をアレンジしていく姿勢ではないかと思います。また、自分の考え方に合うキャリア理論を、自分で選んで活用することも重要です。
一言でキャリア理論といっても様々な種類のものが存在しています。企業研修やセミナーなどでもよく活用される身近なものでは、例えばエドガー・シャインのキャリア・アンカーや、クルンボルツのプランド・ハプンスタンス(計画的偶発性理論)が有名です。
キャリアは産業心理学・組織心理学・職業心理学・カウンセリング心理学・職業心理学・キャリア発達論など様々な学問分野を包含するテーマで多くの理論が存在しています。
そして現在、全ての理論を統一したものは存在していないと言われているそうです。人生という長い時間を取り扱うことや、人間の生き方/働き方が時代と共に変わっていくことがその実現を難しくさせる要因なのかもしれません。
統一されずに多数存在しているのであれば、せめてどのような分類がなされているのかを調べてみました。いくつかご紹介したいと思います。
キャリア理論の百年史(1900-2000年)という歴史的側面から、大きな3つの転換期に注目して分類しています。
※出典:野淵龍雄(2001)キャリア理論の分類学序説-現代学校進路指導の基底にあるもの-
人間関係学研究 記念号, 200
進路選択・発達の原因・内容に焦点をあてる「内容理論」と過程のメカニズムに焦点をあてている「過程理論」で分類したのがこちらです。
※出典:板柳恒夫(2007)キャリア・カウンセリングの概念と理論, 愛知教育大学研究報告,
56(教育科学編), 78
最後に、同じく理論の特性で分類をしているキャリアカウンセラーのトレーニングプログラムの資格発行をしているGCDF-Japanが定めるものを参照したいと思います。
これらの分類を眺めているだけでも、キャリアというテーマが包括する分野の広さに気付かされます。最もわかりやすく分類されている(と私は思う)GCDF-Japanが定める分類を参考にしながら、キャリア理論について整理していきたいと思います。